マルチブラケットとかセクショナルアーチでは、1本1本の歯の表面にブラケットという白いボタンのような装置が付いています。
時々「歯に穴を開けてつけるのかと思ってた。」
と仰る方がいらっしゃいますが、そんなことをしたら大変です(笑)。
これは接着剤で付けるので、だからこそ外すこともできるわけです。
治療開始から終了まで外れないでくれたら理想的なのですが、時々外れることがあります。
またひっきりなしに外れる患者さんもいれば、治療期間中ただの一度も外れない患者さんもいます。
大人の歯に被せる差し歯でも外れることがありますね。それに比べてブラケットは歯の表面に1cm2の4分の1くらいの面積で横向きに着いているわけですから、差し歯に比べたら外れないのが奇跡みたいなものです。
(ちなみにこの接着剤を開発したのは日本人です。それまでは世界中の矯正歯科医はすべての歯にバンドという金属のテープを巻いて、それに金属のブラケットを溶接してセメントで着けていました。マルチブラケットを着けるのに何時間もかかっていました。)
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外れやすさの傾向として
・治療初期:ワイヤーが細いため、食べ物を噛むときに受ける力を単体のブラケットがもろに受けやすい。ワイヤーが太くなるに従って外力を多くの歯で分散して受けるため、だんだん外れにくくなります。
・噛み合わせが深い:上の歯が下の歯に被さるため、食べ物を介して下のブラケットが咬合力をもろに受ける。このため噛む力が強い人ほど外れやすくなります。
・歯の質:エナメル質の強度が弱い場合、特にエナメル質形成不全や初期むし歯の歯の表面はカルシウムの濃度が低いため、接着の強度が弱くなります。逆にエナメル質の強度が強すぎる場合(特にむし歯が全然無い方)も接着剤が接着しにくくなります。
また金属やセラミックの表面は接着力が大きく下がります。特殊な表面加工が必要ですが、天然歯と同じ接着力は得られません。
・ブラケットの製品ムラ:ブラケットの裏側には接着剤が絡まりやすいようにでこぼこなどの維持形態(小数点1以下ミリレベル)が付与されていますが、時々これに欠陥があることがあります。同じ場所のブラケットが外れる時はこれを疑って新しいブラケットに替えるようにしています。
・食べ方:前歯で固形物(固いパン、唐揚げ、果物など)をかじり取る際に瞬間的に強い力がかかって外れることがあります。特に装置に慣れない間に起こります。一口サイズにしてから食べると避けられます。
ただ接着が強ければ強いほど良いという訳ではありません。いずれ外さなければならないからです。エナメル質と一体化してしまうくらいの接着剤だと、外した時にエナメル質に傷がついてしまいます。
外れてほしくないけれど外れないと困る…これがブラケットの接着です。
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余談ですが、
私は大隅半島に来る前は鹿児島大学病院に勤務していました。当時と開業してからで、ブラケットの脱離の経験にかなり違いがあります。とにかく鹿屋ではブラケットの脱離が多いのです。
当初は「大隅半島の子どもたちは野生児のように噛み応えのある食べ物を食べていたりして…笑」とか思ったりしたこともあったのですが、ある時都内の大学に勤務する同業の同級生(某大学教授)にぼやいたところ「水じゃない?」と言われたのです。
そういえば高隈山系の水はかなりの硬度です。医療機械の中にも数年でかなりの水アカが付着するので、水が通るところは詰まりやすくメンテナンスが大変です。
接着剤は化学反応を起こして硬化させるため、硬化の過程や硬化後の日常生活で水の影響を受けることがあるのかもしれません。これまで何種類も接着剤を替えたり試行錯誤をして今の接着剤にたどり着きましたが、それでも鹿児島市内の脱落頻度までは下がっていません。
もし水が影響しているのであれば、ずっと付き合っていくしかありませんね(汗)。